登山ガイドで気象予報士の矢野です。
2018年7月の月イチ机上講座テーマは「ちょっと危ないときのロープワーク」でした。
ロープワークといっても様々です。ロッククライミング、バリエーションルート、雪山登山、セルフレスキュー、プロの救助隊、、、目的や場面で必要となる技術・資材・判断基準はいろいろ変わります。そこで最初に今回のテーマである「ちょっと危ない」が想定していることの認識合わせを行いました。
・岩場の高度感で体の動きが固くなってしまう(軽い高所恐怖症)
・バテて足元がおぼつかなくなってしまう
・子どもは特に慎重に
など一部メンバーをサポートしてあげたい場面
セルフレスキューにおいて自分で動けない要救助者を搬送・救助するのとは違い、自分で動ける仲間の歩行を少し手伝ってあげる、あるいは、怖がっている仲間の安全確保をしてあげる、そんな場面を想定しています。整備された登山道を歩く一般的な登山者がロープワークを使うとしたらこうした場面が多いのではないかと思います。
さて本題です。まずは道具の確認から。
私が普段持ち歩くセットは「ちょっと危ない」より広範囲なので多めです。みなさんが最初に揃えるものとしては「120cmスリングx2、180cmスリングx1、安全環付きカラビナx1」、その次に「8mm x 20m~30m ロープ、HMSカラビナ」といったように徐々に買い足すことを提案しました。
次にスリングで簡易ハーネスを作りました。写真は180cmスリングでシットハーネスを作ったところで、私が右手に持っているカラビナにもう1本別の120cmスリングをかけ、それを引っ張って補助します。ほかに120cmスリングでチェストハーネスも作りましたが、シートベンドの結びは間違いやすいので注意が必要です。
スリングを持って引っ張るだけでは危いと感じる場所ではロープを使います。人がぶら下がったロープを止めるにはどれくらいの力が必要か、カラビナで折り返しただけの場合と、ムンターヒッチ(=半マスト、イタリアンヒッチ)を介した場合を比較して「重さ・楽さ」を感じてもらい、何らかのブレーキアシストが必要なことを理解してもらいました。
樹木ビレイ、岩角ビレイ、エイト環、ビレイデバイス(ATC)、腰がらみ、肩がらみ、ムンターヒッチ、どれもロープの摩擦がブレーキアシストとなり、ロープを軽く握れば止まるシステムになっています。その原理および潜在リスクを1つ1つ確認していきました。現場では教科書通りのきれいなセッティングができず何らかアレンジが必要になりますが、「安全なアレンジは原理の理解から」と私は考えており、手技だけでなく、そもそもの原理も理解してもらっています。
ATC というビレイデバイスを下降器として使う場合、ロープ屈曲部の摩擦力を右手の握力でコントロールしながら下降します。右手を離してしまうと墜落ですが、下にいる別の人(写真左上の脚だけ写っている人)がロープを引けばロープ屈曲部に摩擦力が生じて墜落を止められます。そのようなバックアップの原理もご紹介しました。その原理がわかれば、バックアップしている人がいつロープを緩めていいか自ずと分かってきます。
地味でも大切なことはあります。1つでも新たな気づきをお持ち帰りいただけたなら幸いです。
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