親子で富士登山 〜小学生と登った経験から〜

親子・子連れでの富士登山を検討されている方々へ、私と息子の実体験をご紹介します。

「親子で富士登山」への素朴な疑問

何歳から登れる?

「自分の体の不調を大人にしっかり意思表示できるコミュニケーション力」 が絶対条件で、あとは本人が登りたいと言えば、小学生以上ならチャレンジできると思います(登頂できるかどうかは別)。

ベビーキャリア(背負子)が必要だったり、「泣いているだけだと、こっちがどうしてあげればいいのかわからない」と親が思うことが日常的に多ければ、富士山に限らず山登りはもう少し待ったほうがいいでしょう。

親は親で、自分のケアにプラスして子供のサポート役をやり遂げられる力があるかどうか、慎重に自問自答してほしいです。子供に最大限楽しんでもらえるよう、親は下山するまで自分に余裕を持っていたいものです。

私と息子の初めての富士登山は息子が幼稚園年中(5歳0ヶ月)でした。たまたま好条件が揃って剣ヶ峰(3,776m)まで到達できましたが、下山が17時過ぎ、さらに下山直後から激しい雷雨となり間一髪のところでした。振り返ると、何か1つでも条件が揃わなければ私の手に負えない事態になっていた可能性大で、無謀(=準備不足)だったなと反省しました。以後、毎年連続して富士登山に出かけていますが、頂上まで行かれなかったり、ひどい雨の中を歩いたこともありますが、どの程度の対策を準備すればいいかわかってくると、たいていのことは想定内のこととして安全・迅速に対処できるようになりました。

富士登山ってどれくらい大変?

山の大きさ

山小屋泊を前提とすると、2日連続で高尾山を計4回登るくらいの運動量です。
休憩含まない累積歩行時間で10時間を軽く超えます。5合目登山口から山頂までの標高差は約1,500mです(ルートによって変わります)。高尾山の2倍の標高差を2日間繰り返す感じです。

山の高さ

上のほうは空気が薄くて大変です。富士山の頂上は平地の約2/3の気圧となり、少し激しく動くとすぐに息切れして苦しいです。
また、高山病の症状(頭痛、倦怠感、吐き気、食欲減退など)が出ると、肉体的にも精神的にもつらいです。症状が重く改善しなければ低い所に降りるしかありません。(高山病は標高3,000mくらいから発症すると言われますが、個人差が大きいようです。私はかつて標高2,017mの雲取山で発症しました。)

子供のサポート

大人同士で登っても自分の面倒だけで精一杯なのに、子供のサポートまでしなければいけないので、身心ともに親へ負担がかかります。富士登山に限った話ではないのですが、親がイライラして子供につらく接している場面にちょくちょく遭遇します。どんな状況であっても子どもの心に寄り添い続け、最大の味方としてサポートし続けられるかどうかは、親がどれだけ余裕を持って行動できるかにかかっています。そのためにも、まずは親自身に体力・知識ともに十分な準備をしていただきたいです。

「親子で富士登山」に感じる不安と対策

体力

「頂上まで行って帰ってこられるか?」

近郊の山を登ってみて判断するのがいいと思います。山登り自体が初めてなら、まずは高尾山クラス(麓からの標高差は400m)から始めて、奥多摩や丹沢などの標高差800mクラスの山の日帰りまでステップアップできれば体力的には十分だと思います。

私と息子は親子登山8回目が初めての富士登山でしたが、それまで標高差500mまでの山登りの経験しかなく、はっきり言って準備不足でした。その翌年の2回目の富士登山は親子登山20回目でしたが、それまでに標高差800mの山登りも経験し、息子は大人のコースタイムの1.2倍で歩けるようになっていました。

体調

「高山病にならない?」

「なる」と思ったほうがいいです(症状の種類や程度はいろいろありますが)。どの富士山ガイド本にも高山病予防について書いてあるので、いろいろ読んでみてください。

私と息子は高山病は体に取り入れる酸素が不足することで生じていることに着目し、呼吸法を工夫して高山病を予防しています。深呼吸なのですが、「(吸ってから吐くではなくて)吐いてから吸う」「めいいっぱい吐く(吸うことは意識せずとも勝手に入ってくる)」を意識的に行うことで体に酸素をより多く取り込めるようになっているようです。富士山の登山道の九十九折を「一往復したら深呼吸2回」で登っています。合わせて、十分な水分摂取も予防策の1つです。

これらを確実に行っても高山病になってしまうこともあるでしょう。そのときは上記対策をより強化して実行し回復を待ちます。回復の兆しがなければ残された選択肢は「高度を下げる(=下山)」だけです。

気候

「暑い/寒い?」

夏から冬までの気候への対応が求められます。
5合目登山口から歩き始めて1時間もすれば森林限界を超え、陽射しを遮ってくれる樹木がなくなります。高所なので涼しいですが、強い陽射しと登りの運動量で暑く感じます。日焼け対策も重要です。ところが雨天になると雨が冷たく感じられ、手先がむき出しだと震えてきます。(できれば防水性能のある)薄手の手袋が欲しいです。
標高3,000m前後の山小屋ではストーブが焚かれています。気温はひと桁台に下がり、じっとしていると首都圏での真冬の防寒具が欲しくなります。山頂の気温は山小屋よりさらに5℃ほど低くなります。

私と息子は明るくなってから山小屋を出発しているので、山頂での御来光待ちで寒い思いをした経験がありません。山頂で御来光を迎えるためには山小屋を1時くらいに出発して3-4時間歩く必要があります。小さい子どもを歩かせるのはかわいそうな時間帯だと思います。十分休息して体調万全な状態で2日目の富士山登頂を目指すのが一番だと思います。

「雨が降っても登るの?」

延期して、天候のよい日に仕切りなおすのが一番だと思います。

天気が良ければ景色は最高、自分の歩いていく先も見渡せて安心できます(心が折れるという人もいますが)。何らかの理由で登頂できなかったとしても、そこまでの過程に楽しいこと、素晴らしいこととたくさん出会えているはずで、夏の良き思い出になるはずです。

また、ほとんどの山小屋はキャンセル料を取らないのは「無理して登ってこないでね」という意味もあります。私もキャンセルさせてもらったことがありますが「条件のいいときに来てくださいね」と言っていただきました。

私と息子は雨天の富士登山を2回経験しています。1日目に山小屋までの登りが雨のときと、2日目の未明から風雨となり登頂できなかったときです。どちらも雨は1日だけで、別の1日に景色を存分に楽しめましたので、雨で散々な思いをしたという印象はありません。ただ、雨は冷たかったです。「夏なんだから雨に打たれて歩けばかえって気持ちいいだろ」と思われるかもしれませんが、富士山は気温が低いので、顔や手が雨でびしゃびしゃに濡れた状態にしておくと次第にブルブルきます。低体温症に注意してください。

設備

「トイレは?」

登山道では山小屋のトイレが使えます。頂上にも公衆トイレがあります。どこも有料で1回300円くらいです。吉田、須走、富士宮ルートならだいたい1時間ごとに山小屋がでてきます。それでも女性のほうは順番待ちの列ができやすいので、早め早めに済ませるのがいいでしょう。

あと、トイレが「バイオトイレ」なので、その使い方に注意が必要です。「トイレットペーパーを中に捨てない」「使用後はフタを閉める」です。バイオトイレはおがくずに混ぜた微生物がし尿を分解してくれる仕組みです。しかし微生物はトイレットペーパーを分解出来ません。なので備え付けのゴミ箱(大きな箱のときもあり)に捨てるようになっています。いつもの習慣でついうっかり中に捨ててしまわないよう強く意識しましょう。また、微生物は低温と乾燥に弱いデリケートな生き物です。保温と保湿のためにしっかりフタを閉めてあげましょう。

私と息子はトイレ用に100円玉を20-30枚持って行き、5枚くらいはすぐ取り出せるところに入れています。それに、トイレが間に合わないときの備えとして、携帯トイレ、ロールペーパーも持って行きます。人通りが多く隠れる場所の少ない富士山で「やる」のは結構大変です。レインウェアで隠す、余裕があればツェルトを持っていって頭からかぶる、などの工夫もできます。人から離れようと登山道の外に出ることは厳禁です。斜面に止まっている石はほんのちょっとの刺激でいとも簡単に落石となり、下を歩く人に当たれば死亡・重症といった大事故になります。

その他

「どれくらい混むの?」

ルート、曜日、時間帯によりけりです。

富士登山者の6割が利用する吉田ルートは、山としては異次元の人の多さで、観光地並みの混雑です。強いて言えば、北アルプスの上高地バスターミナルくらい混雑しています。最も空いているのは御殿場ルートです。富士登山者の2-3%しか利用しておらず混雑とは無縁ですが、それには理由があります。他コースより破格に長くて標高差で1,000m余計に登り下りしなければならないからです。そこで、富士宮口をスタートにして、宝永火口を経由して御殿場ルートへトラバースする「プリンスルート」というコース取りが密かな人気です。

曜日は土日、土曜泊の山小屋が一番混みます。それでも1枚の布団に1.5〜2人程度なので、スペースはそこそこ用意されています。

時間帯は、登山口は午前中〜昼前にスタートして小屋泊する人の流れ、小屋から上は山頂で御来光を迎えるひ人の流れが混雑のピークだそうです。スタートは早めに、山頂御来光にはこだわらない、とする「時差登山」もいいと思います。

私と息子はなるべく平日(日月もあり)、プリンスルート、山小屋で朝食を食べ、空いている登山道を人に気兼ねせず歩いています。

おまけ

なぜ富士山に登るの?

やはり「日本一の山」だからでしょう。富士山は普段山登りしない人も登りますが、標高第2位(南アルプスの北岳)以下の山は好きで登山をする人ばかりです。

私と息子は初めての「親子で富士登山」でその後山登りを続けていくことが決定したようなものです。富士山登頂は息子の大きな自信になっています。毎年「富士山に登る」と自分から言ってくるのも、自分の自信の根拠を確かめるためなのかもしれません。

富士登山から広がる世界

「親子で富士登山」大人だけで登っても大変。ましてや小学生や幼稚園児を面倒見しながらの子連れ富士登山となれば、親はさらにさらに大変です。でも、親子が相棒として認め合い、苦楽を共にすることは、何度経験しても楽しいものです。興味を持たれたのであれば、是非とも実行に向けて準備を始めてください。そして、富士山1回きりでなく、どこのどんな山でもいいので、いろんな山へ親子登山に出かけるようになってもらえたら、山好きとしてはうれしい限りです。

焦らず、怒らず、助け合いながら、笑顔で富士山を登ってきてください。
みなさまの「親子で富士登山」が安全で楽しくなることを願っております。